本の基本情報
著者プロフィール
上念司
1969年、東京都生まれ。経済評論家。中央大学法学部法律学科卒業。 在学中は創立1901年の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、 臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監 査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。 2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一名誉教授に師事し、薫陶 を受ける。リフレ派の論客として、『経済で読み解く日本史 全6巻』(飛鳥新 社)、『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』(講談社+α新書) など著書多数。テレビ、ラジオなどで活躍中。
https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594091064
本書の要点
- 給料が上がらない理由は、一度上げた給料は下げられないため、企業が安定した雇用を守るために慎重に昇給を判断しているからである。
- 内部留保は社員の雇用を守るための資金として確保されており、経済危機時に会社が倒産しないよう備えられている。
- 日本の平均賃金が他国と比べて低く見えるのは、物価上昇が抑えられているためであり、実質的な生活水準は他国と大きく変わらない。
- 平均賃金の統計には失業者が含まれていないため、実際の生活水準や経済状況を正確に反映していない可能性がある。
- 正社員は終身雇用という「保険」に守られており、安定した雇用と引き換えに大幅な昇給が難しい構造になっている。
あなたの給料が上がらない理由とは?企業の仕組みを解説
給料がなかなか上がらない理由は、企業側の仕組みによるものです。この本では、給与の仕組みを深掘りしながら、なぜ昇給が難しいのかを解説しています。社員の安定雇用を守るための企業戦略や、給料を上げるリスクについて詳しく掘り下げます。以下でそのポイントを紹介します。
給料が上がると下げられない仕組みがある
給料が簡単に上がらない理由の一つに「一度上げた給料は下げられない」という仕組みがあります。企業は給料を上げる決断に慎重にならざるを得ない状況なのです。
たとえば、社員の給料を20万円から30万円に上げたとしましょう。業績が好調なら問題はありません。しかし、次年度以降に業績が悪化した場合でも、同じ給料を支払い続ける必要があります。給料は契約に基づくものなので、簡単に減額できないのです。
もし突然給料が半分に下がったら、生活が立ち行かなくなる人が続出するでしょう。このリスクを避けるために、企業は給料を上げるタイミングを慎重に見極めています。
企業が給料を抑える背景には、社員の雇用を守る責任があります。たとえ景気が悪化しても社員を解雇せずに済むように、給料は容易に上げない方針をとるわけです。この仕組みを理解すると、なぜ昇給が少ないのかが少し納得できるかもしれませんよね。
給料を上げづらい理由は安定雇用を守るため
企業が給料を上げづらいのは、社員の雇用を守るためという側面があります。昇給を抑えることで、長期的に社員を支えられる体制を作っているのです。
日本の多くの企業は終身雇用制度を採用しており、景気変動の中でも社員を守るために努力しています。特に、不況時にはこの体制が社員の生活を支える重要な役割を果たします。
企業にとっては、短期的な昇給よりも長期的な雇用の維持が優先です。これにより、社員は解雇のリスクを減らしつつ安定した収入を得ることができます。一方で、その結果として昇給は後回しになりやすくなるのです。
また、企業は給料を上げることが一時的な対応ではなく、将来的に続けられるかどうかも検討します。そのため、急激な業績向上があっても、慎重な判断が求められるのです。
業績悪化時に給料を下げられないリスク
企業が給料を上げることに慎重なのは、業績が悪化した際に給料を簡単に下げられないからです。これは社員を守る制度としては重要ですが、企業経営の観点からは大きなリスクにもなります。
たとえば、会社の売上が50%減少した場合に、翌月から給料を半分にするという対応は現実的に不可能です。社員の生活を守るために、給料を維持する必要があるからです。その結果、企業は資金繰りに苦しむ可能性もあります。
このため、企業は多少業績が良くなったとしても、昇給には慎重な姿勢をとるわけです。特に、過去の経済危機や景気後退の経験から、突然の業績悪化に備える必要性を強く感じています。
社員としては給料が上がらないことに不満を持つかもしれませんが、企業側には社員を守るための複雑な事情があるのです。この視点を持つことで、給料の仕組みをより深く理解できるでしょう。
内部留保は社員を守るための重要な備え
企業が内部留保を蓄える理由は、社員の雇用を守るための資金を確保することです。経済危機や業績悪化時にも給与を支払い続けるためには、内部留保という安全網が欠かせません。本書では、内部留保の役割や重要性を具体例を交えて詳しく解説しています。以下では、企業が内部留保を確保する背景やその影響について掘り下げます。
内部留保とは何か?企業が貯金する理由
内部留保とは、企業が利益の一部を蓄える資金のことです。多くの企業は、この資金を将来の備えとして確保しています。
企業にとって内部留保は、突然の経済危機や業績悪化に対処するための命綱です。売上が急激に落ち込んでも、社員の給料や事業の継続に必要な資金を確保できるようにしているのです。この仕組みにより、社員の生活を守るための安全策が整えられています。
たとえば、バブル崩壊やリーマンショックでは、多くの企業が倒産やリストラを余儀なくされました。しかし、内部留保を蓄えていた企業は、雇用を維持しながら危機を乗り越えることができたのです。
内部留保は「企業の貯金」として理解されがちですが、その目的は単なる蓄えではありません。未来の事業投資や緊急時の資金繰りに使われるため、企業の存続に欠かせない役割を果たします。このように、社員の安定を第一に考える企業は、内部留保を積極的に確保しているのです。
過去の経済危機と内部留保の役割
過去の経済危機では、内部留保の重要性が特に浮き彫りになりました。危機に備える資金の有無が企業の生き残りを左右したのです。
1991年のバブル崩壊では、多くの企業が資金繰りに苦しみ、倒産やリストラが相次ぎました。一方で、内部留保を蓄えていた企業は、給料を払い続けながら再建に向けて動くことができました。このように内部留保は、経済危機の際に社員を守るためのクッションとして機能します。
2008年のリーマンショックでも同様の現象が起こりました。景気の急落で経営が悪化した企業は、内部留保を取り崩して社員の雇用を維持しました。このとき、十分な資金を持たない企業は人員削減を余儀なくされ、多くの人が職を失う事態に直面しました。
最近では、新型コロナウイルスの影響で経済活動が大きく制限されましたが、内部留保を活用して給与を支払い続けた企業も多く存在します。この実例からも、内部留保は社員を守るための重要な備えであることがわかりますよね。
内部留保がないと企業は倒産のリスクが高まる
内部留保が不足している企業は、経済危機に直面した際に倒産のリスクが高まります。この資金は、企業と社員の命綱とも言えるものです。
内部留保がない企業では、業績が悪化したときに必要な資金が足りず、すぐに資金繰りに困る状況になります。この場合、給与の支払いが滞るだけでなく、倒産に追い込まれる可能性もあります。実際に過去の経済危機では、内部留保が不足していた企業が次々と市場から姿を消しました。
社員にとっても内部留保は安心材料の一つです。企業がこの資金を持つことで、リストラや給与カットのリスクを減らし、安定した雇用環境を維持できるからです。
しかし、内部留保が多すぎる企業に対しては、「お金を使わずに溜め込んでいるだけではないか」と批判されることもあります。ただし、実際にはこれらの資金は社員の雇用を守るための保険として機能しているのです。
企業の視点から見ると、内部留保は単なる余剰資金ではなく、経営を安定させるための重要な戦略です。これを理解すると、給料がすぐに上がらない理由にも納得できるのではないでしょうか。
日本の平均賃金は本当に低い?データを正しく読む
日本の平均賃金は他国と比較して低いと言われますが、実はデータの見方によって印象が大きく変わります。本書では、賃金データの背景や計算方法に潜むからくりを解説し、日本の賃金が必ずしも低いわけではない理由を示しています。ここでは、物価や失業率を踏まえながら平均賃金を正しく理解するための視点を紹介します。
他国と比較しても実質賃金は低くない
日本の平均賃金が停滞しているというニュースを目にすることは多いですよね。しかし、その数字だけを見て判断するのは危険です。
多くの国では、物価が上昇するにつれて給料も上がる仕組みになっています。つまり、給料が増えているように見えても、実際には物価の上昇で生活コストも高くなっているのです。
たとえば、給料が20万円から40万円に倍増した国があるとします。見た目は魅力的ですが、その国の物価も2倍に上昇していれば、生活水準はほとんど変わりません。対して、日本は物価の上昇が抑えられているため、給料が横ばいでも生活コストが低く抑えられているのです。
このように、単純に数字だけを比較すると誤解が生じやすくなります。物価と収入のバランスを考えると、日本の生活環境は決して悪くないと言えますよね。
平均賃金は物価上昇と連動する仕組み
給料の増加が他国ほど顕著でない理由には、日本の物価が関係しています。多くの国ではインフレが進み、物価が上がることで給料も連動して上がる仕組みです。
一方で、日本は長年デフレの状態にありました。物価がほとんど上がらないため、給料も大きく変わらなかったのです。これをネガティブに捉える人もいますが、物価の安定は生活費を抑えるメリットでもあります。
例えば、海外では外食や日用品の価格が急激に上がり、生活費の負担が増えています。しかし、日本では100円ショップや低価格チェーン店の存在もあり、低コストで生活を維持しやすい環境が整っています。
さらに、日本は安定した医療制度や公共サービスを提供しており、他国と比べて社会保障面でも安心感があります。こうした点を踏まえると、日本の給料水準は数字だけで判断するべきではないことがわかりますよね。
統計に失業者は含まれず実態が見えにくい
賃金データの落とし穴は、失業者が統計に含まれないことです。この仕組みが、平均賃金の数字を実態より高く見せる原因になっています。
たとえば、人口10人の国で、全員が10万円の給料をもらっていたとします。この場合、平均賃金は10万円です。しかし、1人が失業して収入ゼロになった場合、9人だけのデータが使われるため、平均賃金は変わらず10万円のままです。
このように、失業率が高い国では、一部の高収入者が平均値を引き上げるため、実際の生活水準とは異なる数字が出るのです。
一方、日本は失業率が非常に低く、多くの人が安定した職についています。この状況が平均賃金の伸びを抑える要因になっているとも言えるでしょう。失業者が少ないという安心感は、賃金データでは見えにくい価値の一つです。
この視点から見ると、賃金データだけに注目するのではなく、失業率や生活費も含めた総合的な視野で判断することが重要だとわかりますよね。
給料が上がらない理由と正社員の保険的役割
給料が簡単に上がらない背景には、正社員が「保険」のように守られている仕組みがあります。企業は社員の雇用を維持するため、昇給よりも安定を優先する傾向が強いのです。本書では、正社員の待遇が安定する仕組みと、それに伴う給料の上がりにくさについて具体例を交えて説明しています。以下では、安定した雇用を支える制度と給料の関係を掘り下げます。
給料が上がらなくても正社員は守られている
正社員は雇用が守られやすく、給料が簡単に下がらない制度の中で働いています。これは、企業が社員の安定を優先する結果です。
正社員は、景気が悪くなった場合でも簡単に解雇されることがありません。これは、日本の労働市場が終身雇用を前提としているためです。この仕組みがあるおかげで、不況時でも安定した収入を得られます。
一方で、企業はこの安定性を守るために、給料を上げる判断を慎重に行っています。収益が少し増えたからといってすぐに昇給を行うと、将来的に業績が悪化した際に支払い続ける負担が重くなるからです。このため、給料が上がりにくい仕組みになっていますよね。
また、正社員として働くことは、生活の安定だけでなく社会保険や年金などの保障も含まれています。これらの制度は、将来の安心材料となるものです。しかし、その代償として給料の伸びが抑えられる点は理解しておきたいですよね。
終身雇用制度が安定を保証する仕組み
日本の終身雇用制度は、社員が長く安心して働ける環境を作り出しています。この仕組みがあるからこそ、企業は社員の雇用を守るために努力しているのです。
終身雇用では、社員は定年まで同じ企業で働ける前提で採用されます。景気が悪化したとしても、正社員はすぐに解雇される心配がありません。この点は、転職や解雇が一般的な海外の働き方とは大きく異なります。
しかし、この制度を維持するために企業側はリスク管理を求められます。急な業績悪化でも社員の給料を支払うためには、昇給を慎重に行い、内部留保を確保する必要があります。これにより、給料が上がりにくくなるわけです。
終身雇用のもう一つの特徴は、年功序列の賃金体系です。若手社員のうちは給料が抑えられますが、勤続年数に応じて徐々に上がっていく仕組みになっています。このため、短期的な昇給は難しくても、長期的には安定した収入が期待できるのです。
このように、終身雇用制度は安定した働き方を保証する反面、給料の伸びには制約がある点がポイントですよね。
保険のような雇用の安定と引き換えの給料体系
正社員の待遇は、保険に加入しているような安心感を得られる一方で、大幅な昇給が難しい構造になっています。この仕組みが安定と引き換えになっているのです。
企業は、社員を守るために給料の上昇よりも雇用の安定を優先します。たとえば、コロナ禍のような危機的状況でも、多くの正社員が解雇されずに済みました。これは、企業が内部留保や資金管理を通じて雇用を維持していたからです。
この体制は、正社員にとって大きな安心材料ですが、リスクを最小限に抑えるために給料の上がり方が抑制されることにつながっています。企業側は、安定性を保つために利益の一部を貯蓄し、将来の危機に備える必要があるからです。
また、この仕組みは正社員が終身雇用という「保険」に守られているからこそ成り立っています。給料は上がりにくいですが、解雇されるリスクが低く、社会保障も充実しているのがメリットです。
このように、安定した雇用を重視する企業の仕組みは、私たちの生活を守る大切な役割を果たしています。しかし、昇給を重視する場合は、この保険を手放して転職や副業といった別の道を考える必要も出てきますよね。
人生のゴールを考えることでキャリアを再設計
給料を上げるためには、人生のゴールを明確にすることが重要です。本書では、自分がどんな生活を送りたいのかを考えることで、キャリアの方向性がはっきりすると述べられています。ここでは、自分に合った働き方の基準やスキルアップの方法、成長する企業の選び方について具体的に解説していきます。
自分に合った働き方を選ぶための基準を持つ
人生のゴールを考えることは、自分にとって最適な働き方を見つけるための第一歩です。何を大切にしたいかによって、選ぶべき道は変わってきますよね。
まずは、自分の価値観や生活スタイルを整理してみましょう。高収入を目指すのか、安定した生活を優先するのかで働き方は大きく変わります。たとえば、高収入を目指すならば昇給やキャリアアップを積極的に狙う必要があります。一方、安定を重視するならば、現在の職場でスキルを磨きつつ着実にキャリアを積むことが有効です。
また、ライフスタイルに合わせた働き方も重要です。家庭や趣味を重視したい場合は、ワークライフバランスを取りやすい環境を選ぶことが求められます。このように、自分の価値観を軸に働き方を決めると、将来への不安が減り、より充実したキャリアを築けますよね。
本業でスキルを磨き将来の選択肢を広げる
給料を上げるためには、今の仕事でスキルを磨くことが欠かせません。実績を積むことで、転職や独立といった新しい道も開けてくるのです。
本業でのスキルアップは、仕事をしながら学び続けることがポイントです。たとえば、社内で成果を出し、周囲から評価されることで自信と実績が生まれます。この実績が転職市場で評価され、給料アップにつながるケースも多いですよね。
また、スキルを磨くことで独立のチャンスも広がります。専門的なスキルを身につけると、自分で事業を立ち上げる可能性も見えてくるでしょう。特に成長分野や最新技術に関連したスキルは、需要が高く収入アップにつながる可能性が大きいですよね。
このように、本業での努力がキャリアの選択肢を広げ、将来の給料アップに直結します。現状に満足せず、継続的にスキルを磨く姿勢が大切ですね。
成長する企業で働くことがキャリアアップの鍵
成長している企業で働くことは、スキルアップとキャリア形成の大きなチャンスになります。成長企業ではポジションが増え、挑戦できる仕事も多くなるからです。
成長企業では、新しい役割やプロジェクトを任される機会が増えます。これにより、自然と責任感が生まれ、新しいスキルや知識を吸収する環境が整いますよね。また、役職や業務範囲の変化によって給料アップの可能性も高まります。
一方で、成長が停滞している企業では、ポジションが固定化しやすく、新しい経験を積むチャンスが限られます。その結果、スキルアップが難しくなり、昇給の機会も減ってしまいます。
転職や就職を考える際には、企業の成長性や業界の将来性をしっかりと見極めることが大切ですよね。特に、新しい分野やテクノロジーに強みを持つ企業は今後も発展が期待できるため、積極的に情報収集を行うことをおすすめします。
このように、成長する企業を選ぶことで、スキルを磨きながら給料アップのチャンスをつかめるのです。あなたも、自分のキャリアを考え直すきっかけにしてみてくださいね。
「あなたの給料が上がらない不都合な理由」まとめ
この記事では『あなたの給料が上がらない不都合な理由』の要点を解説しました。この記事のポイントをまとめました。最後におさらいしましょう。
- 給料が上がらない仕組みを理解して行動を見直す
- スキルを磨きキャリアアップの準備を進める
- 成長企業を選んで給料アップのチャンスをつかむ
給料が上がりにくい背景を理解することで、より戦略的な行動が可能になります。安定を守りつつ収入を増やすための一歩を踏み出してみてください。この記事を参考に、自分に合ったキャリア設計を進めてみましょう。
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