本の基本情報
著者プロフィール
村中直人
1977年生まれ。臨床心理士・公認心理師。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事。Neurodiversity at Work株式会社代表取締役。人の神経学的な多様性に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および学びかた、働きかたの多様性が尊重される社会の実現を目指して活動。2008年から多様なニーズのある子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、現在は「発達障害サポーター’sスクール」での支援者育成にも力を入れている。著書に『ニューロダイバーシティの教科書――多様性尊重社会へのキーワード』(金子書房)がある。
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784314011884#:~:text=%E8%87%A8%E5%BA%8A%E5%BF%83%E7%90%86%E5%A3%AB%E3%83%BB%E5%85%AC%E8%AA%8D%E5%BF%83%E7%90%86,%E5%AE%9F%E7%8F%BE%E3%82%92%E7%9B%AE%E6%8C%87%E3%81%97%E3%81%A6%E6%B4%BB%E5%8B%95%E3%80%82
本書の要点
- 叱ることは相手にネガティブな影響を与える行為であり、思考力を低下させ、行動の根本的な改善には繋がらない。
- 叱ること自体が快感をもたらし、叱る側がこの行為に依存してしまう傾向がある。その結果、叱る行為がエスカレートしやすい。
- 人は「苦しまないと成長しない」という誤った認識を持ちがちだが、実際には自己決定感が重要であり、自分で選んだことによって成長や学びが促進される。
- 叱ることを効果的に抑えるためには、事前に求める行動や価値観を伝え、感情的にならずに短く的確に叱ることが重要である。
「叱る依存」とは?脳科学が明かすその危険性
叱る行為が単に相手を成長させるためのものではなく、実は「依存」や「快感」を伴う危険な行為であることが、本書のポイントです。脳科学的に解明されたこの「叱る依存」は、叱ることで得られる自己効力感が快感となり、次第に繰り返してしまう依存性があります。さらに、叱られる側の脳にも重大な影響を与え、思考力の低下や恐怖感を引き起こすといわれています。では、叱ることの具体的な影響や仕組みを詳しく見ていきましょう。
叱る行為に潜む「快感」のメカニズム
叱るという行為は単なる指導やしつけではなく、脳が感じる快感に強く結びついています。人が他者を叱るとき、脳の報酬系が刺激され、ドーパミンが放出されることで、満足感や優越感が得られるのです。これが「叱る依存」の基盤となっています。自分の権力を感じるとともに、叱られる人が従順になる瞬間に一時的な成功体験を感じるため、無意識に繰り返すことが多くなります。
一方で、叱られた側の感情はどうでしょうか?多くの場合、恐怖やストレスを感じ、ただその場を乗り切るために行動を改めることがほとんどです。しかし、長期的にはその改善は持続せず、また同じ過ちを繰り返すことが少なくありません。それに気づかず、さらに強い叱責を加える悪循環に陥るのです。このように、「叱る」という行為は、指導という建前の下で自己満足に陥りやすい危険な行為なのです。
なぜ叱ると人は支配的な気持ちになるのか
叱ることで感じる快感は、ただの満足感にとどまりません。人は叱る行為によって、相手を自分の思い通りにコントロールできるという感覚を持ち、支配的な感情を抱きやすくなります。これは、脳が報酬を受け取った瞬間に自己効力感を強く感じるためです。
相手が自分に従うと、脳はさらに強い満足感を得ます。この結果、権力者である親や上司、教師などが頻繁に叱ることで、相手をコントロールできるという錯覚に陥りやすくなります。しかし、この支配感は長続きせず、さらに強い叱責を加えなければ次第に満足しなくなるという悪循環に陥るのです。
叱られる側の脳に起こる変化とは
叱られた側の脳は、強いストレスを感じると、思考力が低下します。これは、脳が「戦うか逃げるか」の臨戦態勢に入るためであり、冷静な判断ができなくなるからです。この状態では、本質的な問題解決や成長につながる行動をとる余裕がなく、むしろミスや過ちを繰り返す恐れがあります。
さらに、叱られることによって恐怖や不安が強く残り、その後の人間関係にも悪影響を与えることがあります。叱られることで自己肯定感が低下し、叱った相手に対して恐怖や反感を抱くことも少なくありません。このように、叱る行為は一時的な行動改善にはつながるかもしれませんが、長期的には相手にとって負の影響をもたらすことが多いのです。
叱ることで人は成長しない?学びを妨げる理由
本書で強調されているのは、叱る行為が相手の成長や学びを促進するものではないという点です。むしろ、叱られた相手は恐怖や不安を感じ、思考力が著しく低下します。これにより、問題解決の能力が失われ、相手が本質的に行動を改善する余裕がなくなります。叱ることが短期的な行動改善につながる場合もありますが、長期的には学びや成長に結びつかない理由を以下でさらに掘り下げます。
叱ることで思考力が低下する仕組み
叱ると相手の脳が防御モードに入り、「戦うか逃げるか」の選択しかできなくなります。これは、脳が強いストレスを受けたときに発動するメカニズムです。野生動物が危険に直面したとき、即座に逃げるか戦うかを決めるのと同じ状態になります。このため、叱られた人は冷静に考える余裕を失い、判断力が低下します。
たとえば、上司から強く叱られた部下は、次に何をすべきか正確に判断する余裕がなくなり、その場をどうにか乗り切るために謝罪や行動を取ります。ところが、その行動は本質的な問題解決にはつながらず、また同じミスを繰り返す可能性が高いです。この仕組みにより、叱る行為はむしろ成長や学びを妨げてしまうのです。
成長につながらない理由とは何か
叱る行為が成長につながらないのは、相手が一時的な恐怖や不安から行動を改めるだけで、長期的な学びが得られないからです。叱られた側はその場を回避するために従順な行動を取りますが、その後、根本的な原因について考える時間や余裕を持てません。実際、脳が強いストレスを受けると、問題解決能力が著しく低下し、本質的な学びが得られにくくなるとされています。
さらに、叱られるたびに同じミスを繰り返すのは、叱る側が本当に伝えたいことが相手に伝わっていないからです。恐怖や不安に支配されているとき、人は深い理解や学びを得ることができず、行動の改善も持続しにくくなります。これが、叱ることで成長が妨げられる理由の一つです。
叱られた人が逃げたくなる心理的効果
叱られると、人は強い恐怖やストレスを感じ、その場から逃れたいという感情に駆られます。この心理的効果は、脳が危機的な状況に置かれたときに起こる自然な反応です。脳は、早くその場を離れることを最優先に考えるため、冷静に問題を見つめ直す余裕がなくなります。結果として、叱られた人はその場を避ける行動を取ることが多くなり、本当の意味での成長や学びが得られないままです。
たとえば、親に叱られた子供が「もう失敗したくない」と感じても、恐怖が先に立つため、次にどう行動すべきかを考える余裕がありません。同じことが仕事の場でも起こり、部下が失敗を恐れて行動を隠すようになる場合もあります。
叱る依存が止まらない背景と原因
「叱る依存」は、単なるしつけや指導の一環ではなく、叱る側が持つ心理的なメカニズムによって引き起こされる依存状態です。叱る行為そのものに快感を感じてしまうため、相手のためではなく、自己満足やストレス発散として行われることが少なくありません。本書では、この依存の背後にある理由が明確にされています。人は、苦しみを与えることで変化が促されるという誤った信念を持ち、さらに叱ることで自己効力感を感じやすいのです。
なぜ人は「叱る」行為に依存するのか
叱る行為は、相手のためではなく、自己満足のために行われることが多いです。人は誰かを叱ることで、瞬間的に相手をコントロールできたと感じ、脳の報酬系が活性化されます。これにより、ドーパミンが分泌され、快感を感じるのです。このメカニズムが繰り返されると、叱ること自体がストレス解消の手段となり、知らぬ間に「叱る依存」に陥ってしまいます。
たとえば、親が子どもをしつけるために何度も叱るうち、子どもが言うことを聞いた瞬間に親は成功体験を感じます。これが続くと、さらに強い叱責が必要になることもあり、エスカレートしてしまうのです。このように、「叱る行為」が必要以上に増える原因は、根底にある心理的な依存にあります。
「苦しみが成長につながる」という誤解
多くの人は、「人は苦しまなければ成長しない」という考えを持っています。この信念が、叱る行為を正当化する理由となることが多いです。しかし、実際には、苦しみが必ずしも成長や学びにつながるわけではありません。むしろ、叱られた側が感じる恐怖やストレスは、思考力を低下させ、本来の学びを阻害します。
叱られると、その瞬間だけは行動を改めるかもしれませんが、それは本質的な成長ではありません。人は自ら学び、経験を通じて気づきを得ることで、真の成長が促されます。叱ることで一時的な行動の改善は見られるものの、長期的な視点で見ると、叱られた人は自己成長や学びのチャンスを失っていることがわかります。
自己効力感と報酬系の関係性
「叱る依存」の背景には、脳の報酬系が強く関係しています。叱ることで相手が従うと、脳はドーパミンを分泌し、自己効力感を感じます。これは一種の快感として脳に記憶され、次回も同じ行動を繰り返すようになります。これにより、叱る行為が自己満足やストレス解消の手段として定着してしまうのです。
たとえば、部下がミスをしたときに強く叱ると、部下はその場で謝罪や行動の改善を見せます。これを目にした上司は「自分の指導が効いた」と感じ、報酬系が活性化します。この一時的な成功体験が、次回以降も同じパターンを繰り返す原因となり、さらに強い叱責を必要とする悪循環が生まれてしまうのです。
叱ることへの対処法と改善策
「叱る依存」に陥らないためには、まず叱る行為そのものとどう向き合うかが重要です。叱らないで指導する方法や、事前に求める行動を相手に伝えておくこと、そして叱る際は短時間で終わらせることが効果的です。本書では、感情的に叱るのではなく、冷静で建設的なコミュニケーションを取るための具体的な方法が紹介されています。これにより、相手の成長を促し、より良い人間関係を築けるでしょう。
叱らないで指導するための具体策
叱らずに相手を指導するためには、まず期待される行動や結果を事前に明確にしておくことが大切です。叱ることによる一時的な効果ではなく、相手が自分の意思で正しい行動を取れるような環境を作ることがポイントです。このとき、事前にルールや基準を説明し、相手が理解したうえで行動できるように促すことが重要です。
たとえば、上司が部下に仕事の目標を伝える際には、何が求められているのかを事前に具体的に説明しておくことが肝心です。これにより、部下が自主的に行動を改善し、叱る必要がなくなります。このように、叱ることが避けられる環境を整えることが、相手の成長につながるのです。
事前に期待する行動を伝える方法
相手に望む行動を伝える際、最も効果的なのは冷静で明確なコミュニケーションです。叱る前に、どのような行動が期待されているのかを具体的に伝えることで、相手も適切に行動を改善できます。これにより、感情的な衝突やストレスの多い対話を避けることが可能です。
たとえば、親が子どもを図書館に連れて行くとき、図書館に入る前に「ここでは静かにしようね」と事前に伝えるだけで、子どもが叱られることなく、状況を理解しやすくなります。事前に説明することで、相手が自分で行動をコントロールできるようになります。
叱るときは短く終わらせる工夫
叱る際、最も大事なのは、感情的に長々と話を続けるのではなく、必要最低限の情報だけを伝えることです。叱ることで相手に与えるストレスを軽減し、より短時間で終わらせることで、相手が余計な負担を感じることを避けることができます。
たとえば、子どもが危険な行動をしたとき、「今すぐやめなさい」と短く注意を促すだけで十分です。その後、冷静になってからどうすれば良かったのかを丁寧に説明するのが効果的です。これにより、叱る行為のネガティブな影響を最小限に抑え、相手の成長を妨げない形で指導ができるのです。
叱る依存を克服し、成長を促すために
今回の記事では、「〈叱る依存〉がとまらない」を要約し、叱る行為が成長を妨げる理由とその対策について解説しました。この記事のポイントをまとめました。最後に、重要な部分をおさらいしましょう。
- 叱る行為に依存せず、冷静なコミュニケーションを取る
- 事前に期待する行動を明確に伝える
- 叱る時は短く、具体的な指示を心がける
叱ることが相手に悪影響を与える理由と対策について深く理解し、改善の第一歩を踏み出しましょう。本記事を読んだことで、今すぐに叱ることを見直して、より良いコミュニケーションを意識してください。この本を読むことで、効果的な指導方法が学べます。ぜひ手に取ってください!
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